かわむらの
日々
矢絣文様小紋
以前から在庫している品なのですが、ここに来て不思議に注目を集めているのがこの矢絣文様小紋です。
十年ほど前に、当時お付き合いのあった染メーカーから仕入れたものです。オーソドックスなものを生真面目に作ってくれるところでしたが、こちらもきっちりとした仕上がりの板場友禅です。
矢絣文様と言われて真っ先にイメージするのは、明治~大正期の女学生でしょうか。矢絣に袴のハイカラさんスタイルに憧れる方も多く、卒業式の衣装としても長く支持を得ていますね。
その他には、やはり江戸の腰元が挙げられるでしょうか。志村けんのバカ殿様を見て育った世代としては、紫色の矢絣文様はその時々のアイドルと由紀さおりさんに即繋がってしまいます。
だからと言うわけではないですが、紫系も揃えております。
矢絣文様の流行も正に江戸期からのもので、歌舞伎の衣装にも見られますし、確かに腰元の制服として採用された事実もあったようです。矢という武器から生まれた文様ですから、本来は男性に好まれそうなものですが、私たちが矢絣に持つイメージは女性向きなものが多いですね。何故なんでしょうか。
江戸期における矢絣文様の使われ方として、嫁入り道具として重視された事実があります。弓から放たれた矢は戻ってこないことから、「出戻らない」にかけて矢絣文様を持たせるという風習がありました。この辺りから矢絣=女性のイメージが強くなったのではないでしょうか。また、破魔矢に見られるように弓矢は神事とも縁が深いので、厄除けの意味も込められているのでしょう。そういったことを考慮すると、この文様が女性を守る願いを込めて継承されてきたと考えるのが自然かなと思います。
鬼滅の刃ブームがあって、日本古来の幾何学文様に注目が集まるようになりました。緑と黒の市松文様を商標登録しようとしたニュースもあり、作品の独創性と伝統的文様としての歴史のどちらが重いかと話題になったりもしましたね。伝統の方に軍配が上がったようですが。
話題に上がることは歓迎ですが、呉服屋としては長く継承されてきた日本の文様の美しさそのものに、より多くの方々が目を向けてくれることを願います。磨かれて単純化された幾何学文様の中に深く多彩な意味が込められていることに気づくと、柄選びなどにもまた新たな楽しみが加わると思いますよ。