かわむらの
日々

着物

布と思いを継承すること

最近、店内でこんな呼び掛けをしております。当店が染み抜きや染め替えを受けていることを知らないお客様もいて、やっているということを知って驚かれたりして、その様子を見てこちらも驚いたりして。当然だと思っていたので伝えないでいましたが、やはり口に出さないと伝わらないものですね。自戒を込めて様々なところで改めて表明しています。

着物の世界では、こういったメンテナンス業務のことを悉皆と呼びます。読んで字の通り「悉く皆」ですから、その内容は非常に多岐に渡ります。最も多いのは着用の際についた染み抜きや汗落とし、長く保管してあったものにはカビ落としや古い定着汚れに対する色補正や柄足し。染め直しや紋に関すること、仕立て直しもありますし、数え上げればきりがないほどに沢山の相談があるわけです。

もの作りと同じように、当店では悉皆にも力を注いできました。元来もの作りと悉皆は表裏一体です。良い作り手の側には良い悉皆業者がいるもので、現在の当店では信頼できる複数の悉皆業者とお付き合いし、それぞれの得意分野を生かして様々な提案をさせてもらっています。難しそうなことでも、可否を含めて見積りを取りますので安心してご相談ください。

こういった相談には、業者の技術も大事ですが窓口としての私たちの知識や感性も問われます。数年前、亡くなったお母様の着物を何かの形で活かしたいという相談を頂きました。お母様から娘さん、お嫁さんに継承するのはサイズ直しや色替えくらいで対応できますが、息子さんも形見として何か欲しいということで暫し思案。結果、紬の着物を作務衣に仕立て替えることにしました。

作務衣の仕立代を業者に聞くと、どこもかなりの高額で困りましたが、当店で仕事をしてくれている和裁士さんの一人が引き受けてくれ解決です。サイズや形状、ポケットの位地もお客様とよく話し合い、出来上がり納めた時にはこちらが驚くほど感激していただきました。今でも、毎日のように愛用してくれているようです。

新しい品を見分けていただくのは勿論うれしいですが、思いの詰まった布を継承するお手伝いが出来るのも非常にやりがいのある仕事です。喜んで対応させていただきますので、ぜひ当店にご相談ください。

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