かわむらの
日々

帯合わせ

梅花の香り

ここ数年来、社寺に参詣してもおみくじを引くということをしてきませんでした。特に理由があるわけではなく、何となくスルーしてきたわけですが、今年の初詣では子供たちが引くのに連れて私も引いてみました。

運勢は中吉。私たちの氏神様である富士山本宮浅間大社のおみくじでは、運勢の吉凶よりもその中身をよく参照すべしと言われます。その内容は「初めは憂いがあるが深く嘆かず心静かにしていれば後には吉となる」という感じで、それを表す和歌が「雪に耐え風をしのぎて梅の花、世に愛でらるるその香りかな」とありました。

一年で最も早く開花することから「百花の先駆け」と呼ばれ、古くから日本人に愛されてきた梅。その芳しい香りも、長い冬の風雪に耐えることからより際立ち愛されるのだと。苦難を越えてこそ人も薫り立つのだという教えでしょう。コロナで充分苦労したと思っていましたが、もう少し苦労して自分を磨けと仰有るのですね、氏神様。分かりました、頑張ります。

着物の柄としても今が旬な梅。今日は梅をテーマにコーディネートしてみます。

生地に直接絵筆を振るう濡れ描きで描き上げた梅文様の振袖に、取り方の中に松竹梅を配した袋帯。

琳派のエッセンスを取り入れて伸びやかに描いた無線友禅は、醒ヶ井さんの初期作品。職人さんの画力の高さが伺えます。

袋帯はとなみ隆さんのものです。絵画性の高い技法である紹巴の特性と、となみさんの洒落心がふんだんに発揮された仕上がりですね。一見して松竹梅がテーマとは分かりません。

最近では、幅広く着られるように四季の花を一枚の中に表しているものが多いですが、その季節を表す一枚を着る楽しさと贅沢さはまた格別のものがあります。成人式を主な場面とする振袖こそ、こういった一枚もまた良いのではないでしょうか。あくまでも上品に、とても目立つ着姿になるでしょう。

梅は激動の時代である幕末の英雄にも愛されました。二大ヒーローとも言える坂本龍馬と高杉晋作は、ともに変名に梅を使っています(坂本龍馬が才谷梅太郎、高杉晋作が谷梅之助)。風雪に耐え、苦難を越えて芳香を放つ梅に自らを投影したのでしょうね。

津田塾大学の創始者である津田梅子。日本の女子教育の先駆けと言われるこの人も、正に梅がよく似合う人生でしたね。かつて、この大学に通っていたお客様がやはり梅を描いた振袖を当店で選び、その出会いに対してとても喜んでいただきました。これも嬉しい思い出です。

梅をテーマにした今回の投稿、私も風雪に耐え、やがて花を咲かせることを再度宣言して終了します。また今度とも宜しくお願いいたします。

 

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